Mahmoudの競馬エッセイ vol.016 「2023天皇賞・春 タイトルホルダー検証」
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今年の天皇賞・春でのタイトルホルダーに関しては、細かく調べても内容的にあまり建設的ではないと感じていたので深堀しないつもりでいましたが、安藤勝己さん、細江純子さんお二人がタイトルホルダーの返し馬の際、違和感を覚えられていたようで、それを契機にいろんな憶測が飛び交っている現状を鑑み、タイトルホルダーの走行データから検証してみることにしました。
まずは競走馬が走る際の基本的なメカニズムについて触れますが、加速する際はピッチを速めてかつストライドを伸ばす、減速する際はピッチを遅くしてストライドを狭めるのが基本です。ラストスパートでの急加速となる場合は、ストライドを狭めつつ一気にピッチを速くしてスピードアップし、その後ストライドを伸ばしてアップさせたスピードを維持する人間ライクな走りをするアーモンドアイやイクイノックスといった特殊な馬がまれにいますが、その2頭も道中のスピードアップ、スピードダウンとなる場合は基本的な走りとなります。また、各々の馬は固有のピッチゾーンを持っていて、道中はスピードに見合ったピッチで走ります。人間なら論理的思考によって同スピードでもピッチを調整したりできますが、競走馬はそうならないと思います。また、掛かった際、馬はピッチを速めようとしますが、そこで騎手が抑えにかかるとピッチは落ち着いていくものの、スピードがなかなか落ちない際はストライドを伸ばしています。ピッチを緩めてスピードも落ち着いた状態なら、見た目には掛かりっぱなしに見えても制御は効いていると見て概ね問題ありません。それではタイトルホルダーの過去走2022天皇賞・春、2022宝塚記念、2023日経賞とともに今回の走りを平均完歩ピッチのグラフで序盤から順を追って見ていきたいと思います。
今回の天皇賞・春では前半200mで相当ピッチを速めてスタートダッシュしています。しかし前半200mを過ぎて間もなく猛ダッシュしていたアフリカンゴールドと競るつもりはなく鞍上横山和生騎手は抑えにかかっています。結果、2022宝塚記念ほど負荷は高くない前半400mと言えます。次は前半800m。
前半400mから2023日経賞のレベルまでピッチは落ち着いています。この前半800mでは2022宝塚記念より断然負荷が少ない状態。そして前半700~800mではこの過去3レースよりもピッチが遅くなっています。何故そこまでピッチが遅くなったのか、それは前を行くアフリカンゴールドが過剰にペースダウンしている影響です。テンで猛ダッシュすればその大きな負荷を取り返すためにどこかで緩めなければなりませんが、アフリカンゴールドは前半600mを過ぎた辺りから早々と大きくペースダウンし始めています。前半800m地点は1周目4コーナー半ば。4コーナーをクリアしてしばらく走った辺りが前半900m地点。この1周目4コーナーをクリアして直線に向く間、3番手のアスクビクターモアと5番手アイアンバローズは外に膨らんでいてアフリカンゴールドのペースダウンに耐えきれない形となっていました。ハイペースなら、一直線上に並んでの追走となってもおかしくないのですが、前半1000m通過が59.7と数字的にはハイペースに見えてもスピード推移的にはおかしな状況となっていました。
ペースをどうするかは逃げた馬が好き勝手にやって全く問題ありません。この時点ではまだアフリカンゴールドの心房細動は発症していなかったと思いますが、テンで猛ダッシュするほど逃げたかった馬が前半800m辺りで逃げ続けることがままならない状況に陥るのはちょっとね、というのが私の感想。もう一度繰り返しますがペースをどうするかは逃げた馬が好き勝手にやって全く問題ありません。なので咎める気は全くありませんが、G1の舞台でこういった逃げはあまり見たくなかったのが本音。レース前に「強気と無謀は紙一重」とTweetしたのですが、あの猛烈なスタートダッシュを見た瞬間、このような状況になるのは何となく予見できました。3200mスパンでの逃げという姿には見えなかったので。もっとも、このアフリカンゴールドの逃げは強力先行馬、特に折り合いに難のある馬に対してはパフォーマンスダウンさせるための有効な手段と言えます。例えば凱旋門賞でペースメーカーを立てこのようなペースメイクをすると難敵を打ち負かす可能性は高まることでしょう。無論、周囲からの批判覚悟で挑む必要はあるでしょうが。次は2周目1コーナーまでの前半1400m。
スローダウンとしたアフリカンゴールドへの対処をどうするかがポイントとなった1周目ホームストレッチ。おそらくですが、アフリカンゴールドを交わしていこうとしたところアフリカンゴールドの抵抗にあい、半ば掛かりながら走ってしまったという感じではないかと思います。タイトルホルダーにとってもこのホームストレッチでの走りは高負荷状態。この前半1400m通過時点では若干のオーバーペース気味というところかと思います。ゴールまで最も速いタイムで駆け抜ける理想的なペース推移を少し逸脱してしまった形。前半1000mはタイトルホルダーで59.8~59.9辺りかと思いますが、このラップタイムは別に速いほどではなく、その後の400mが少々キツかったという見立てになります。間接的にはなりますが後続馬にとってもホームストレッチで押し上げていくのは負荷が少し大きかったように思います。次は2周目の3コーナー手前となる前半2000m。
2周目1コーナーとなる前半1400mからはペースを落とせています。2022天皇賞・春よりは追走負荷の高いレースとなっていますが、2022宝塚記念より高負荷ではなく、ペースがグッと落ち込んだ前半2000mの時点で通常のタイトルホルダーならここからペースアップもままならない状態になることは決してありません。当然何かしらの異変があったということです。一口にハイペースと言ってもその内容は様々なのが一点。そして何よりも重要なのは個々の馬にとっては能力、特性に応じて苦しくなるハイペースのゾーンが異なるということ。ここ1年のスパンで考えると長距離において最もペース耐性力がある現役馬はタイトルホルダーであることに異論がある人はいないでしょう。次は1~2コーナーの中間となる前半1600m=後半1600mから後半1000mまで、タイトルホルダーの左後方を進んでいたアイアンバローズとタイトルホルダーの真後ろにいたアスクビクターモアの3頭の平均完歩ピッチを比較してみましょう。
L1600~1400mは約190mがコーナー区間、L1400~1200mは直線区間で平坦、L1200~1000mは直線区間で1m少々坂を上ります。ずっと同じピッチで走り続ければL1200~1000mで最もストライド長が大きくなりラップタイムも速くなります。このL1600~1000mの200m毎でタイトルホルダーが刻んだラップタイムは公式で12.8-12.9-13.3、私が計測した値で12.85-12.80-13.35。アイアンバローズとアスクビクターモアはタイトルホルダーとの間隔がさほど変わらないままの走行ですが、この2頭は徐々にピッチが遅くなっているのに対し、タイトルホルダーは一定気味で僅かながらも速くなる傾向にあります。ここは非常に違和感のある部分。個々のラップタイムと平均完歩ピッチから200m毎の平均ストライド長が計算できるので、そのストライド長の変遷を見ると何が起きていたのかわかるかと思います。
アイアンバローズとアスクビクターモアは直線部分となったL1400~1200mで自然とストライドが伸び、坂のあるL1200~1000mでストライドが狭くなっていますが、その推移の波形はほぼ同じ。一方、タイトルホルダーはコーナー区間であるL1600~1400mが最もストライドが伸びており、その後狭くなっていてL1200~1000mでは他の2頭よりストライドの狭まり方が急です。このデータから私が推測すると、L1400mを過ぎ2コーナーをクリアした頃から地面を蹴る力が徐々に失われており失速が始まっている状態。ハッキリとわかるようなミスステップでもあれば鞍上横山和生騎手がその時点で止めたと思われますが、急に異変が起きたわけではなく徐々にパワーダウンしていく状態だったので、これはさすがに変だと気付いたのはL1200mを過ぎてからだったのではないでしょうか。坂を上り始める残り1100m辺りではその異変は明らかなモノだっただろうと思います。全く進んで行こうとしないタイトルホルダーだったので、アイアンバローズが自然と並ぶようになったのはL1000m辺り。その後数完歩ほど横山和生騎手が軽く促すシーンがありましたが、残り800mのハロン棒を過ぎて6完歩目のところで手綱を引きブレーキを掛けることとなりました。ちなみに3コーナーをクリアしてからコーナーのRが緩くなったところで逆手前となる左手前に替えましたが、その時点ではもう抑えに入っていた段階。走るのを止める指示を受け手前を替えたのか、苦しくて替えたのかはわかりません。結局、施行距離の半分プラスアルファ、1800mほど走ったところから異変が起きていたのではないかというのが私の推測となります。そしてタイトルホルダーの左後方にいたアイアンバローズ鞍上坂井瑠星騎手は、タイトルホルダーのスピードのノリが悪いのに気づいていたのではないでしょうか。スピードが変わらなくてもその分ゆったりとしたリズムで走り続けていれば迫力を感じたのでしょうが、実際のタイトルホルダーはそうではなかったわけで、この坂井瑠星騎手のバックストレッチにおけるタイトルホルダーに対するコメントはぜひ聞いていたいところです。また、そもそもマトモに走れる状態でなければ前述の通りタイトルホルダー自身としてもかなりの高回転でスタートダッシュすることはできるはずもないと考えられます。今回も含め近6走の前半600mでの平均完歩ピッチの推移はこちら。
肉体的な状態が悪かったのか、単にタイトルホルダー自身のやる気がなかったのか定かではありませんが、データから推測すると総合的な意味合いで状態が良くなかったと思われるのは昨年の凱旋門賞です。さして促すことなくハナに立ったならまだしも、いつも同様激しく促してハナに立っていました。それでもピッチは全く速くなりません。結果、後ろからプレッシャーを掛けられピッチを緩めるタイミングが取れない序盤の走り。そこからすると今回の天皇賞・春とは雲泥の差があります。次は2022有馬記念当時と今年2戦に関する追い切りの様子を見てもらいましょう。ラスト400mを50m毎に細分化した平均完歩ピッチのグラフと、ラスト200mのラップタイムおよび平均ストライド長です。
2022-12-15:11.5【6.65m】
2022-12-21:11.6【6.88m】
2023-03-22:11.2【6.85m】
2023-04-19:11.2【6.88m】
2023-04-26:12.1【6.84m】
2022-12-21:11.6【6.88m】
2023-03-22:11.2【6.85m】
2023-04-19:11.2【6.88m】
2023-04-26:12.1【6.84m】
2023-04-26の今回の直前追い切りのみ軽めの内容でラスト200mのラップタイムは遅いです。それは完歩ピッチのレベルからも頷けることでしょう。しかし平均ストライド長は0.9秒も速い11.2をマークした時と遜色のない値。軽めながらもストライドを良く伸ばした力強い調教という典型例です。そして2023-03-22、2023-04-19での追い切りは、各セクションのラップタイムを踏まえてのラスト200m11.2を叩き出したのは見事というしかない内容で、5歳となってさらにパワーアップしたのではないかと思えるほどでした。この走行データからは、少なくとも2023-04-26の追い切り時点で何かしらの異変があったように見えるところは全くの皆無であるというのが私の結論です。最後にタイトルホルダーの名誉を守るため、2023日経賞の凄さを見てもらいたいと思います。先に上げたグラフの通り2022天皇賞・春程度の負荷の道中の追走だったのでタイトルホルダーにとっては2500m戦なら楽なレースでもありましたが後半は素晴らしい走りをしていました。
付いて来られる馬がいなかったのでラストスパートを遅らせることになった側面があるものの、L300~200mで一気にピッチを速めキレている末脚を発揮しています。この区間の完歩ピッチの値は0.395秒/完歩。2022凱旋門賞時のスタートダッシュより遥かにピッチは速いです。それだけ余力たっぷりで2周目4コーナーを回ってきたということ。もしゴールまで理想的なペース配分で走れば、実際の着差8馬身どころか大差を付けるまでになっていたことでしょう。この走りと2022天皇賞・春の走り、そして前述の5歳になってからの追い切りのパワーアップ感を踏まえて、今回の天皇賞・春当日の馬場状態なら3:14.2と推測タイムをTweetしました。1周目ホームストレッチの走りがあったので理想的なペース推移は難しくなっていましたが、それでも3分15秒は切っていた可能性が高かったと思います。たらればですが、本来なら昨年同様ブッちぎりの勝利を収めていたのではないかというのが私の見立てとなります。
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