Mahmoudの競馬エッセイ vol.015 「サリエラ」
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このエッセイでそろそろ特定の馬を取り上げて解説していこうと考えており、その候補馬の1頭が先日凱旋門賞への登録を行ったというニュースを見たので今回はそのサリエラについて書いていこうと思います。
サリエラの母サロミナの産駒は魅力ある馬が何頭も誕生しています。引退レースの2020有馬記念でクロノジェネシスの2着となった全姉サラキア、芝1800mの現日本レコードホルダーである全兄エスコーラ、そして何といっても代表的なのが半兄サリオスですね。まずはこのサリオスの特徴について改めて詳しく触れながらサリエラはどう違うのかを説明していきましょう。サリオスの2戦目2019-10-05サウジアラビアRCとサリエラの初戦2021-11-28新馬を平均完歩ピッチと平均ストライド長を用いて比較してみます。
重賞レースと新馬を比べるのはあまり妥当ではありませんが、サリエラの新馬は2歳11月としてはなかなかの好内容。とはいっても私の指数上では当然サリオスのサウジアラビアRCの方がマイル換算で1.2秒速いレベル。ラスト1000mのラップタイムを指数化したL5指数は同等、ラスト600mのラップタイムを指数化したL3指数はサリオスが約0.6秒速く、ラスト1000mが同ラップながらもラスト600m地点ではサリオスが0.6秒遅れを取っていてラスト600mで追い付いた形です。こういったラップタイム推移は各々のレースの流れによって左右されますが、この2頭の比較ではサリオスがラスト600m特化型で駆け抜けています。それは平均完歩ピッチのグラフ形状でもわかるようにサリオスの波形は角度が急な形となっています。サリエラはもっとスローな流れでサリオスのようにラスト600m特化型で走れば完歩ピッチの値は速くなりそうに思えてしまいますが、実は全4戦、この新馬でのL500~400mの値がキャリアハイとなっています。そしてこの2レース時、サリオスの馬体重が540kgに対しサリエラは424kg。100kg以上馬体重に差がありながらもサリオスの方がピッチは速いんですね。この兄と妹、フットワークの質が全く異なります。サリオスは典型的なピッチタイプの馬であり、完歩ピッチの値がグンと速くなったL400~200m区間の平均ストライド長は前後の区間より少し短くなっていて、いかにも瞬発力の良さが特徴というのが現れています。このサウジアラビアRCでは後ろに位置していたクラヴァシュドールに一旦少し前に出られてから差し返すという展開で、その構図を見る限りエンジンの掛かりが遅いと見られていたようですが、それは正しくない捉え方。平均完歩ピッチの波形通りにL400mから一気にピッチを速めて最速完歩ピッチ区間はL300~200m。クラヴァシュドールが単にひと足早くスピードに乗っただけのことであって、トップスピードはサリオスの方が優っていました。後の一般的なサリオス評というのは、その正しくない捉え方がベースとなってしまったので現実の走りとの乖離差が生じていたのではないかと私は思います。
以前の馬ならスピルバーグ、現役馬なら3歳馬オープンファイアのように500kg前後の馬でピッチタイプの走法であってもエンジンの掛かりが遅いタイプがまれに存在し、そういった馬は1完歩毎のパワーが弱くて結果、距離が持つ特徴となりますが、サリオスは筋力に支えられたピッチタイプランナーであって1完歩毎のパワーが強く距離が持ちにくい傾向にあります。550kg近い馬体重でこのピッチゾーンとなる馬で、長距離を得意としていた馬は私の記憶には1頭もいません。先日もTweetしましたが確証はないもののサリオスはミオスタチン遺伝子CC型でしょう。父ハーツクライはCT型確定で母サロミナもおそらくCT型。この父母の組み合わせならCC・CT・TT型全てが誕生する可能性があります。
サリオスは日本ダービー2着という実績があるので長距離も行けそうとなりますが、3歳春の時点での能力というのは古馬G1レベルと比較すると必ず見劣りします。そういったレベルの戦いにおいては能力あるいは完成力の高さで適性に合わない施行距離であっても好戦できるケースはたくさんありますが、各馬徐々に成長していった後のG1での戦いでは距離適性の差というのが現れてきます。ちなみに日本ダービー時の後半1000mにおける平均完歩ピッチと平均ストライド長のデータがこちら。
ゴール前の脚色が鈍ると距離が長過ぎたと見られがちですが、それはケースバイケースでラストスパートのピークが早ければどんな馬でもゴールに近づくにつてどんどん失速していきます。しかし、いつもと同じようなピークのタイミングなのに脚色が鈍る際はまさに距離が長過ぎた、という捉え方が正しくなります。この日本ダービーでのサリオスのラストスパートのピークはL400~300m。良いタイミングです。その後ピッチが遅くなるのは当然ですが、脚色が良ければストライドは伸びていきます。この東京競馬場の場合L400~200mでは坂を上りL200~0mは平坦。一定の力の入れ具合でL400~0mを同ピッチで走ればL200~0mの方がストライドは伸びます。サウジアラビアRCではL200~0mでストライドが伸びていましたが、日本ダービーでは狭くなっていて、これはやはり距離の影響と考えられます。当馬を管理していた堀調教師が3歳秋以降2000m超のレースに使わなかったのは前述のミオスタチン遺伝子CC型を踏まえてのことだったかなと推測しますし、またレースぶりからも極めて妥当なジャッジだったと思います。
サリエラは半兄サリオスと似たところがほとんど感じられない走りの質です。2戦目1勝クラスではラスト200mで5頭を交わし、昔ならキレがあると思われていたタイプなのでしょうが、実際のところキレはありません。もっとも、こういったキレというフレーズは相対的な印象度で語られるわけで、下級条件ではキレと感じられても上級クラスではキレないという印象となることはよくありますが、サリエラは良い表現をするならば脚が長く続くタイプ、悪い表現をすれば他馬の失速待ち、というタイプになります。この2戦目東京芝2000m戦ではラスト600mを迎える段階で自身の追走ペースは200m平均12.73で、スタンダードな良馬場では超の文字がいくつも付くようなスローペース。ラスト600mは32.9で上がりましたが同じようにサリオスが走れば32秒台前半は軽く出せます。このサリエラのラストスパートでのスピードレンジでは、例えば上級クラスのマイル戦では相当苦しくなります。2000m戦でも少し足らない印象がありますが、最後の直線がかなり長いコースで各馬ラストスパートのピークが前倒し的なレースになった際には浮上してくる可能性が十分あります。前述の通り他馬の失速待ちが期待できるからです。こういった特徴を逃げ切った新馬戦から見せていたので、最後の直線の長い競馬場が多い欧州でのレースに期待を寄せるというのが私の見立てであり注目している1頭ということになります。
次走は目黒記念とのこと。ここで結果を出さないことには凱旋門賞云々にはなりませんが、1勝クラス、3歳牝馬限定重賞、オープンリステッド競走の芝2000m戦を経てG2芝2500m戦に挑むのはローテーション的に好ましいと私は思います。当マガジンで200m平均ラップの観点から距離適性に関して述べましたが、施行距離が延長されると200m平均ラップは遅くなります。しかし同距離であってもクラスが上がると平均ラップは速くなります。つまり、クラスを上げてかつ距離延長に挑むと、過去走での平均ラップとの差異が少ない環境下でレースを行えるという側面があります。多くの馬が苦労する一つのパターンとして、ゆるゆるのペースの2000m新馬戦を走った次走1800mの重賞にチャレンジする場合、平均ラップが一気に上がって対応するのが難しくなるんですね。もちろんレースペースは様々であって画一的なパターンには決してならないのですが、順調にレース経験を重ねていくための一つの考え方になるのではないかと私は思います。それではサリエラの全4戦を指数データ等で検証してみましょう。
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