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Mahmoudの競馬エッセイ vol.001 「スピードとは」

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Mahmoud
2023/1/25 20:38
先日TVで「野球vs陸上50m走」という企画をたまたま見つけました。その企画でおもしろい点の一つがスタートライン左側にあるシグナルの点灯に合わせてスタートを切るという形。野球選手4名と陸上選手2名の競走で勝者は100m自己ベスト10.01秒を持つ多田修平選手。走破タイムは6.02秒と発表されていましたが、59.94fpsで解析するとタイム計測開始からシグナル点灯まで約0.033秒タイムラグがありました。多田修平選手は実際には6秒を僅かに切っていたんじゃないかと思いますが、その誤差に大した意味はなく興味深いのはシグナル点灯に対する反応時間。
一般に手動計時は電子計時と比べ0.24秒速くなると言われています。ずいぶん昔の話になりますが私が中学生の頃、デジタル式腕時計が世に出て1/100秒単位となるストップウォッチ機能は革新的でした。友人が持っていたデジタル式腕時計を借りていろいろ試したことの一つがこの手動計測での誤差。ストップウォッチをスタートさせ、秒表示のところが例えば「3」という数字が表れた瞬間ストップウォッチを止めるという物。慣れてくると限りなく「3.24」に近づくのを体感していました。つまりスターターが放ったピストルから白煙が上がり、それを認識してストップウォッチを押すという作業までに平均0.24秒要するということ。ちなみに陸上競技ではピストルの号砲から0.1秒以内に一定以上の重力がスターティングブロックに掛かるとフライング判定されます。この0.1秒という値が近年妥当な値か否か取りざたされていますね。
この「野球vs陸上50m走」に出場した6選手は右脚を前にしてスタート態勢を取り右手を膝の上に置いています。あくまでも59.94fps、約0.0160.017秒単位での計測になりますが、膝の上に置いた右手がシグナル点灯から最も速く反応したのは阪神タイガース中野拓夢選手と千葉ロッテマリーンズ髙部瑛斗選手の0.183秒。ヒジがピクっと反応しています。そして0.216秒後には全選手が反応していました。また、野球・サッカー選手の50m計測で使用される、いわゆる「タッチダウン方式」の計測態勢までがシグナル点灯から0.4330.467秒ほど。その態勢を認識してストップウォッチを押すまでのタイムラグを加算した0.7秒前後がタッチダウン方式計測と電子計測との誤差になるかと思います。
さて、このレースでは東京ヤクルトスワローズ並木秀尊選手が序盤をリードする展開。ゴール寸前多田修平選手が交わしたように見えますが、例によってカメラ角度の問題でおそらく42m辺りで多田修平選手が並木秀尊選手を交わしていたんじゃないかと思います。それにしても並木秀尊選手の走りは見事でしたが、じゃあ多田修平選手と並木秀尊選手、どちらがスピードがあるのかは視点によって評価が変わってくる事象ではないかと思うんですね。陸上の多田修平選手は100m走を基本としてトレーニングを積んでいるはず。私の手持ちの資料からすると陸上選手がトップスピードを維持できる距離はせいぜい20mほどで10完歩弱。100mをいかに速く走るかはペース配分的要素が多分にあるのでしょう。一方野球選手の場合、盗塁という視点に立てばリードとスライディング始動までの20m少々が勝負区間。100m走と比べ1/4、あるいは1/5のスパンでしかなく、求められるスピードの質が大きく異なります。こういった質の違いがよく現れていたこのレースだったと感じました。競馬的に言えば、並木秀尊選手は1000m戦でのチャンピオン。12001400m戦になれば多田修平選手が上位に来る、そんなイメージかもしれません。戦前100mのベストが10.01秒で日本選手権のチャンピオンである多田修平選手が負けるはずもないという先入観があったとは思いますが、各々の専門分野の距離の約2倍となる選手と、距離が半分となる選手同士の戦い、実におもしろかったです。ちなみに陸上100m走の場合、トップスピードに到達するのは50m以降が多いようです。
つまり、スピードというフレーズはいかなるスポーツでも語られますが、意外とあいまいな部分があって何をもってスピードが速い・遅いとするのか、その前提条件によって答が変わってきます。そしてそのスピードは時速やラップタイム等で表現されるケースが多いわけですが、その値の背景にあるものによって評価が異なります。よく私が例に出す内容となりますが、競馬におけるラップタイムを用いて説明してみます。
400m区間での200m毎のラップタイムが11.4-11.4だったとします。このラップタイムがレース中どこの区間でマークされたかによって評価が異なってきますね。バックストレッチでマークされたとすれば、それを100m毎に細分化すれば5.7-5.7-5.7-5.7とイーブンスピードで走り続けるような形になるケースが圧倒的に多いことでしょう。言い換えれば全力で走っているわけではなくスピードコントロールして走っている状態です。一方、ゴール前となるホームストレッチでマークされたとすれば、ほとんどのケースが全力疾走時。先の人間より長い区間となるものの競走馬もトップスピードを維持できる区間はたかが知れています。おそらく100mにも満たないくらいじゃないかと推測していますし、1/10秒単位のラップタイムベースで見ても200mまでにとどまると思います。したがってホームストレッチでの11.4-11.4は、100m毎のラップタイムなら例えば5.75-5.65-5.65-5.75だったり、あるいは5.80-5.60-5.60-5.80だったり。当然この400m区間の中間にあたる100300m区間では11.3011.20で後者が速いわけですが、その400m区間の次の区間では前者の方が速く走るケースがほとんどとなります。11.4-11.4と同じラップタイムを刻んでも前者が持続力型、後者が瞬発力型といった評価の違いとなってきますね。目に入る値そのものを単純比較しても真実に迫るのは難しく、その値の背景にあるものを踏まえる必要があるのです。そしてさらに詳しく言うならば、この両者の比較では持続力型である前者の方が強い可能性が高いです。上級レースになると400m程度までのラストスパート勝負というレースはあまり存在しなくて、瞬発力型はもう一段高いスピードレンジを有していないと持続力型にラストスパート勝負で互角に戦えません。また、トップスピードをよりゴール寄りでマークする方が優位に立ちます。全開スパートがどの段階で行われたかが重要であり、騎手の仕掛けるタイミングが大きなポイントとなるわけで、例えスピードの持続力に劣ったとしても他馬よりスパート始動を遅くできれば勝機が見えてきます。誰でもイメージできるものの質の違いで上下関係が変わってくるのが「スピード」の実態なのです。 
私がリアルタイムで毎週競馬を見るようになった最初の日本ダービーはラッキールーラが勝った1977年。当然同年皐月賞でのハードバージ、鞍上の福永洋一騎手に魅了された一人です。そんな私の競馬観を基に、競馬に関するいろんな話題を硬軟織り交ぜて書いていくのがこのマガジンです。週1回更新していきますのでご興味ある方は購入していただけると幸いです。今回のvol.1の有料部分では過日Tweetした昨年末の競輪グランプリ覇者脇本雄太選手とイクイノックスの天皇賞・秋の走りを50m毎のデータを用いながらもう少し深堀していきます。

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