
ファミコン互換機の製造数は? 「HOT BOY」編【第14回】
0
ファミコン互換機を巡る大いなる謎、「互換機はどれくらいの数が作られたのか?」に迫る。今回取り上げる箭鴻電子は「HOT BOY」ブランドで知られる小規模メーカーで、その軌跡は前回の豪康電子工業有限公司(HKC)とよく似ています。両社を比較することで何が見えてくるでしょうか?

今回も知名度の低いメーカーのお話になります。その名も箭鴻電子股份有限公司 (Grand Arrow Electronics)。「知る人ぞ知る」の度合いでいえば、前回取り上げた豪康電子工業有限公司(HKC Electron)と同等あるいはそれ以上でしょう。なぜそんな無名メーカーにまたもやこだわるのかというと、両社の歩んだ道のりがとてもよく似ているからです。
知名度はもとより、両社は活躍した時代も同じなら、販路や製品のあり方にも通じるものがありました。同じような条件下、同じような製品展開を行っていたふたつの会社を比べることで見えてくるものがあるのではないか、と考えたのです。
台湾ファミコン互換機メーカーの中では、両社はともに後発組です。箭鴻電子の設立は1989年9月で、会社自体は豪康電子より2年ほど先行していますが、その差が大きなアドバンテージに繋がっていたようには見えません。販路の広がりを見る限り、むしろ後発の豪康電子のほうが若干勢いがあったように見受けられます。
どちらの会社も最初は南米市場に注力し、1993年頃までその方面を中心に販路を拡大していきました。この時点において両社の間に目立った違いがあるとすれば、それは商品ラインナップです。豪康電子はファミコン模倣型とオリジナル1機種(HK-486型)を展開してましたが、箭鴻電子にはファミコン模倣型しかありませんでした。
箭鴻電子のファミコン模倣型にはいくつかのバージョンがありますが、性能はどれも大差がありません。ありふれた追加機能(連射ボタンとAV端子)を備えるだけの、当時としてはごく普通の設計で、同社ならではといった特色は何もありません。具体的には以下の4バージョンが知られています。
最初期型(型番なし)

ただ「FAMILY COMPUTER」と名乗るだけの、ありふれたファミコン模倣型。

裏面に「GA~」で始まるシリアルナンバーがあれば間違いなく箭鴻電子製。
稀に「GAMPUTER」という名前を用いることも。箭鴻電子はこの名称を商標登録している。
GA-1000

型番から恐らくこれも初期のモデルと思われるが、現存品が1台しかみつかっておらず詳細不明。
GA-6000
最初期型と同時期あるいは直後に登場。最も多く出回ったモデルのひとつ。

この機種から「HOT BOY」「紅孩兒」のブランド名を用い始めている。画像出典: Dave Flynn

裏面に型番と社名を刻印。「1989」とあることから、創業からそれほど経たないうちに金型が作られたと分かる。画像出典: Dave Flynn
GA-7000
1990年代後半に登場した最終モデル。GA-6000と同じかそれ以上に出回っており、現在もっとも容易に入手できる。無線RF出力を標準化したGA-7000Wという派生型もある。

GA-7000。時折日本国内でも中古品がみつかる。
南米ではアルゼンチンで発売された「ARGEVISION」ブランドの製品や、ベネズエラで発売された偽任天堂ブランド製品(ASIA-001型番)の一部などに、箭鴻電子の製品が採用されています。ASIA-001以外のOEM製品には基本的に型番が付いていませんが、実質的には上記のいずれかに相当すると思われます。

ARGEVISION FAMILY GAME

Nintendo de Venezuela ASIA-001 "Nintendo"。同形状・同型番で別のメーカーが製造したものも存在する。
面白みのないファミコン模倣型ばかりに見える箭鴻電子の製品ですが、水面下ではユニークなオリジナル機種をいろいろと模索していたことが分かっています。それらはいずれも世に出なかったか、出てもごく少数のみに留まりました。以下ではそれを紹介しましょう。
NES変形型その1

出典:台灣專利號 151430「電視遊樂器退匣結構」 申請日期:1990.6.30
カセット排出用の回転ダイヤルを備えた、NESライクなファミコン互換機。恐らく製品化はされていないと思われる。
NES変形型その2(GA-6000W/GA-7200W)

HOT BOY ENTERTAINMENT COMPUTER. 出典:ultimateconsoledatabase.com
これもNESライクな形状で、60ピン・72ピンのカセットをどちらも挿すことができる。ブラジルで1台のみが確認されており、恐らく試験的なマーケティングのみで終わったものと思われる。なお本機種のデザインは、前出の変形NES型その1と同日に意匠登録されている(台灣專利號 158502「電視遊樂器(二)」)。
SUPER MISSION / ENDING-MAN IQ-500

ENDING-MAN IQ-500 [画像出典]
1992年8月13日に意匠登録申請(台灣專利號196739「電視遊樂器」)。箭鴻電子唯一の完全なオリジナルデザイン(メガドライブの影響が顕著すぎるとはいえ)。何らかの事情で自社では発売せず、当時の大手ファミコン互換機メーカーである大雅電子と新天堂から製品化。前者は「SUPER MISSION」 、後者は「ENDING-MAN IQ-500」(上記写真)として発売された。しかしどちらもやはりかなりレアで、現存品はごく少数しか見つかっていない。
同社がなぜオリジナルデザイン機種の発売に消極的だったのかは分かりませんが、ファミコン模倣型に見られる面白みのなさは、イノヴェーションに対する慎重さの裏返しだったのかもしれません。
前出のさまざまなオリジナルデザインは、実際には箭鴻電子ではなく、陳春枝なる人物が意匠登録しています。調べてみると箭鴻電子の設立者である朱銀龍の配偶者であるらしく、彼女自身もまたいくつかの会社を経営していました。
そのうちのひとつに喆龍實業有限公司(Solid Gold Industrial Co., Ltd.)があります。設立は箭鴻電子より古く、もともとスポーツ用品の卸売業者でしたが、ある時期からファミコン互換機も取り扱うようになっています。同社は「Aeropower」というブランドを用いており、英名が "Aeropower Company Ltd." とされることもあります。
興味深いことに、喆龍實業の販売していたファミコン互換機は箭鴻電子製ではなく、任天堂電子(NTDEC)のものでした。もしかすると箭鴻電子製も売っていたのかもしれませんが、今のところ未確認です。

Aeropower販売のNTDEC製ファミコン互換機に封入された取扱説明書の一部。ブラジルで発見。パッケージ内で同ブランドの痕跡を示すのはこれだけで、製品自体は通常のNTDEC製ファミコン模倣型と何ら変わらない。[画像出典]
どういう事情でライバルメーカーの製品を売っていたのかは分かりませんが、ともかくも同業他社との協業体制があったわけです。これは後に思いがけない形で箭鴻電子に災いすることになりますが、その話は一旦置いておいて、そろそろシリアルナンバーを読み解いていきましょう。
箭鴻電子と喆龍實業の経営状況について、資料は何も残されていません。ですので販売台数推計の手がかりになるのはシリアルナンバーだけです。今回は約30台分のシリアルナンバーを集めることができましたので、これを元に割り出してみましょう。なお同社は1993年頃からメガドライブ互換機の製造に乗り出しています(これも豪康電子との共通点)。今回はそれらもついでに集計してみました。
この続き: 3,248文字 画像3枚
記事のみで購入
¥1,500
定期購読マガジンで購入
¥500/月
アノウソライズン~非公認ゲーム互換機の世界~
¥500/月
パチファミをはじめとする非公認ゲーム互換機をまじめに研究。あなたの知らない世界のファミコン互換機事情をまとめています。
記事を気に入ったらサポートしよう!




