2020年産馬クラシックロード vol.024
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今年の日本ダービーを振り返ってみましょう。個々の馬については順次追記していく予定ですがまずは全体像を簡単に触れておきます。「競馬エッセイ」と重複しますが大局的にはスローの流れだったものの序盤は結構速かったですね。1コーナーに突入してからハナに立った16番枠パクスオトマニカはかなり脚を使っています。前半200~400mは10.7を切るくらいのラップタイムだったように思いますが、鞍上田辺裕信騎手はここでかなり労力を使ったのを当然感じ取っているわけで、2400m戦を走り切る上で必然的にペースを落とし始めます。ごくまれに先頭に立っても突っ走ってしまう馬はいますが、大多数は先頭に立ちさえすればペースダウンは鞍上の意のまま。しかしすぐ後ろの後続勢はペースダウンを遅れて察知するわけで折り合いが難しくなります。今年の天皇賞・春で目一杯吹かせてハナに立ったアフリカンゴールドが早々とペースダウンしようとした光景と根本は同じ状況。通常なら2番手以降はペースダウンしたパクスオトマニカに続く形で追走しそうなものですが、今回はちょっと違いました。パクスオトマニカのペースダウンに対応しきれず折り合いを凄く欠いていた2番手ホウオウビスケッツは、鞍上丸田恭介騎手がどこまで意図していたかはわからないものの、これ幸いとばかりにさらなるペースダウンを図ったとも見て取れました。2コーナーの出口辺りの前半800mから3コーナー序盤の前半1400m=後半1000m地点まで先頭のパクスオトマニカが刻んだラップタイムは公式値12.5-12.4-12.8。かなりの高速度となる馬場ですから十分遅いペースですが、2番手ホウオウビスケッツはさらに輪をかけて同区間を12.9-13.0-13.1で追走。緩いペースで逃げを打つ馬が大きなマージンを築き、実質のレースコントロール馬がドスローで逃げているような形。日本ダービーとしては極めてまれなレース展開になったと言えるでしょう。こうなると位置取りの優位性が生まれる側面はあるものの、前述のように序盤で5番手までの馬は結構脚を使っています。好位置を取るというのは基本的に労力を要すわけで、その影響がラストスパートに現れるというトレードオフの関係性は絶対的な物。見事に勝利したタスティエーラは3~5番手で1コーナーに突入。絶好位を取るために骨身を削ってもいます。その様子をイメージしていただくために昨年の日本ダービーを勝ったドウデュースとともに全区間における200m毎の平均ストライド長をご覧ください。
道中13~14番手を進んだ昨年のドウデュースはストライドを最も伸ばしたのがL800~600m区間。L1000~800m区間も含めレース後半頑張った形。タスティエーラは中盤ペースがグッと緩んだのでストライドを狭くして余力を温存できてはいるものの、最大ストライド長をマークしたのは前半200~400m=L2200~2000m区間。レース後半では序盤ほどストライドを伸ばせない程度に余力が削られているわけです。好位置を取るというのは必ず頑張るという行為が伴います。位置取りというのは頑張ったか、頑張らなかったかというカッコ付きで論ずる必要があります。
まず手始めに2頭の振り返りを行おうと思いますが、ファントムシーフだけは先に一部分だけ触れておきます。鞍上武豊騎手が「(バックストレッチで前に行く)勇気が足りなかったかもしれない」といったコメントがありましたが、その部分を私なりに補足しておきます。ペースがグッと落ちた2コーナー、前半600mを過ぎた辺りで最内にいたフリームファクシが折り合いを欠き首を激しく振るシーンがありました。それに驚いたのかファントムシーフは外に膨れ、逆手前に替えてしまいます。そのまま2コーナーをクリアするまで約29完歩ほど逆手前のまま走行。スピードが緩みコーナーのRも緩いので大きな痛手とはならなかったでしょうが、他馬より余力を多く消耗して2コーナーを回ったのは間違いありません。そういったスムーズさを欠いた状況下を武豊騎手は感じ取っていたと思います。それがバックストレッチで押し上げる決断を妨げたのではないかと推測しています。私の単なる憶測に過ぎませんがもしスムーズに走っていたら、後ろから迫ってきたハーツコンチェルトを制するような形で押し上げて行った可能性があったことでしょう。
さて手始めの2頭のトップバッターはハーツコンチェルト。1コーナーまでの直線部が長いAコースでの前走青葉賞では前半400mを25.0程度で通過。Cコースだと青葉賞より若干遅くなって当然ですが、それでも日本ダービーでは25.7程度で通過。序盤の行き脚が付かなかったです。前半1400m=L1000mまで、青葉賞をベースとして今回の日本ダービーにおける平均完歩ピッチの推移を徐々に比較してみましょう。
前半400mスパンで見れば日本ダービーの方が脚を良く回転させているのですが、地面を力強く蹴っていません。行き脚が付いた青葉賞では道中掛かっているところがあり、L1500~1400mでピッチが速くなっているのは前を行くスキルヴィングとヒシタイカンにつられています。そういった前走を踏まえ日本ダービーでは行き脚が付かなかったので良い意味で折り合いは良好という感触を鞍上松山弘平騎手は得ていたかと思います。それでは日本ダービーのグラフを伸ばしてみましょう。
日本ダービー当日の夜にこんなTweetをしましたが、ジャストフィットな内容ではないですね。松山弘平騎手はハーツコンチェルトをスタートからの流れのまま走らせただけです。L1400mまで、青葉賞と比べてどちらが緩急滑らかかといえば当然日本ダービー。先頭のパクスオトマニカが12.5-12.4-12.8、2番手12.9-13.0-13.1で走った区間をハーツコンチェルトは12.6-12.6-12.6。スタートから前半1400m=L1000mまでのラップタイムは13.9-11.8-12.0-12.3-12.6-12.6-12.6。他馬との相対的評価なら押し上げて行ったように見えましたが絶対的評価では押し上げている雰囲気はありません。関西の中距離ダート戦ではヌルい逃げを打つとバックストレッチでたちどころに捲られてしまいますが、その光景とはまた違った内容。レースの流れに身を任せることなくマイペースを貫いただけ。でも、これができるジョッキーは数少ないですね。私が思うに「動けない」というのは、まず原点としてレースの流れに身を任せたことによるもの。今回のハーツコンチェルトは序盤で馬群から離されたことで必然だったとも言えますが、追い付いたところでペースを合わせる選択肢もあったはず。回りに迎合せず己を貫いたのは称賛するばかりです。もちろんその土壌にはデビュー以来ずっとタッグを組んでいたハーツコンチェルトと松山弘平騎手という姿があったのは言うまでもありません。それではハーツコンチェルト評の最後に、前述の日本ダービー馬の平均ストライド長のグラフにハーツコンチェルトを重ねてみましょう。
前述した「好位置を取るというのは基本的に労力を要すわけで、その影響がラストスパートに現れるというトレードオフの関係性は絶対的な物」とは、まさにこういうことです。序盤位置取りの優位性を犠牲にした代わりに余力をしっかり温存してレース後半最大限頑張ったのがハーツコンチェルトでした。
もう1頭取り上げるのはスキルヴィング。天に召された馬の走りを分析するのは好ましく思われないのを承知の上で、私がスキルヴィングを弔うとすれば後世に走りの足跡を伝えること。お付き合いください。
まずは新馬と未勝利戦での後半1200mの平均完歩ピッチの比較。
新馬ではゴールまでよく脚を回転させていましたが、ヒシタイカンの強烈な末脚に屈する形となりました。続く未勝利は快勝。ラスト3完歩でしっかりブレーキを掛けていたのでラスト100mの平均完歩ピッチは遅くなっていますが新馬同様ラスト200mは11.0程度で走破。全開スパート時のスピードレンジはさほど高くありませんが、ゴールまで失速しにくい末脚が特徴として現れていたのがデビューからの2戦でした。次は3、4戦目のデータを加えてみましょう。
3戦目芝2400m戦ゆりかもめ賞ではスパート始動が随分早くなっています。ラスト900m近いロングスプリント力を見せた一戦。L700~200mまでの500mにわたって、ほぼ一定のピッチで走り続けるという屈強な末脚力。距離延長で真価を発揮しこれほどまで長く脚を使った馬は同世代ではいません。続く4戦目青葉賞でもスパート始動が早くなりそうでしたがじっくり待つほどの余裕ぶりで得意とは言えないラスト400mでの末脚勝負で快勝。スキルヴィングのストロングポイントは何といってもゴールまでしっかり脚が使える点にあります。デビューからの4戦での平均ストライド長の推移でそのストロングポイントが浮かび上がってきます。
青葉賞こそ僅かな差ではあるものの、4戦すべてL200~0m区間で最大ストライド長となっているのです。表現を変えればまだ一度も脚を使い切っていないということ。最後の直線の長い東京競馬場芝2400mという舞台に最も適しているというのがスキルヴィングでした。3戦目ゆりかもめ賞までは序盤の行きっぷりが悪かったのですが、4戦目青葉賞ではその点が改善されていました。それでは日本ダービーを同じ2400m戦のゆりかもめ賞と青葉賞と比較してみましょう。最初に前半800m=L1600mまでの平均完歩ピッチの推移。
このメンバーに入るとさすがに序盤で好位置には付けられませんでしたが1~2コーナーを12、13番手でクリア。ペースが遅くなったのに合わせてピッチを徐々に遅くしています。十分滑らかな動きと言えるでしょう。次はその後の区間を見ていきます。
後方にいたハーツコンチェルトに合わせるようにスキルヴィングも位置取りを上げて行きましたが、この完歩ピッチの推移を見るとハーツコンチェルトと同様に押し上げて行った雰囲気は微塵も感じられません。一つ前のグラフと合わせ3コーナーL1000mまで水が流れるが如く極めてスムーズな追走劇。C.ルメール騎手のエスコートは完璧です。そしてL900mから始動開始。ほとんどの区間で青葉賞よりも断然遅いピッチで追走し、中盤ではゆりかもめ賞よりしっかり緩めているので前2走と比べ、C.ルメール騎手の技術力も相まって余力は十分な状態。キャリアハイのピッチレンジに突入して最後の直線での全開スパートとなるところでしたが・・・。スキルヴィングの体に異変が起きたのは残り500mを切った辺りでしょうか。その頃からストライドが伸びなくなりつつありました。何度も書いてきたことですが、この全開ラストスパートというのは競走馬にとって限りなく本能に準ずる走り。肉体がどうなろうとも懸命に脚を動かそうとするのは競走馬の宿命。しかし地面を蹴る力が失われ脚を回転させる力も失われていきました。スキルヴィング評の最後として上位3頭との平均ストライド長の推移をご覧いただきたいと思います。
この4頭が同じスピードで走ればストライドはスキルヴィングが最も長くなります。L600mまで最も平均的なストライド長で推移するバランスの良い走りをしていたのがスキルヴィング。C.ルメール騎手に導かれ素晴らしい走りをしていました。もしそのまま順調に走り続けることができたのなら、その先は言わずとも想像していただけるかと思います。
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