Mahmoudの競馬エッセイ vol.020 「スローからの上がり勝負」
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今年の日本ダービーは道中緩く流れて、いわゆる「スローからの上がり勝負」と形容されるレースの一つだったかもしれません。このスローからの上がり勝負となる目安の一つは各馬の上がり600mのラップタイムが速いという点。今年牝馬二冠を達成したリバティアイランドの新馬戦の上がり600m31.4はインパクトが強かったのですが、そこまで速くなくても現代なら上がり600mが33秒台前半辺りだと十分速いという認識が一般的なモノかなという感想を持ちます。日本ダービーの施行距離芝2400m戦では1986年以降の1763レースで上がり600m33.4以下をマークしたのは延べ205頭。その中から東京競馬場に絞れば770レースで延べ106頭がマークしており32秒台となるのは延べ13頭。芝2400m戦においては上がり600m32秒台というのは別格な数字で、馬の能力は当然として速い馬場状態等、出るべく条件というのが存在します。2010年日本ダービーを勝ったエイシンフラッシュが32.7をマークしたのでこの値がある意味ベースとなっているところがありますが、東京競馬場芝2400m戦においては今でも最速値であり頂点となるベースという認識で良いかと思います。
今年の日本ダービー当日は誰もが感じるほどのかなりの高速状態の芝で、逃げたパクスオトマニカから離れた2番手追走のホウオウビスケッツの前半1400m=後半1000mの通過タイムは1:27.2で200m平均12.46。先頭からシンガリまで馬群がタイトだった2010年日本ダービーでの先頭馬のラップタイムと比べると、この前半1400mと後半1000mのペースバランスは2番手追走のホウオウビスケッツ基準なら2010年とほぼ同等。馬場状態を考えれば2010年の覇者エイシンフラッシュの上がり600m32.7より速いラップタイムをマークしても不思議ではない状況でしたが勝ち馬タスティエーラで33.5、メンバー中最速は4着ベラジオオペラの33.0。32秒台をマークする馬はいませんでした。その要因は実に簡単な話です。まずは2010年エイシンフラッシュと今年の勝ち馬タスティエーラ、上がり600m最速ベラジオオペラ、そして実質のレースコントロール馬ホウオウビスケッツ4頭の後半1000mにおける平均完歩ピッチの推移をご覧ください。
L1000mからL400mまで、エイシンフラッシュとベラジオオペラはピッチレンジと波形角度はよく似ています。L400mからエイシンフラッシュはさらにピッチを速めているのでエイシンフラッシュが断然キレる脚を持っていると解釈するのはあながち間違ってはいないものの、この2頭の持ち前のピッチレンジは異なります。同じスピードで走らせたらベラジオオペラの方がピッチは遅いんです。言い換えればベラジオオペラの方がトビは大きい。つまりL1000mからはベラジオオペラの方が速いスピードで走っているので結果的に2頭のピッチレンジが同等に見えてしまうということ。0.05秒単位でこの4頭の後半1000mの個別ラップタイムを表わすと概ねこんな感じになります。
タスティエーラ
12.40-11.60-10.95-10.95-11.60
12.40-11.60-10.95-10.95-11.60
ベラジオオペラ
12.30-11.80-10.90-10.85-11.30
12.30-11.80-10.90-10.85-11.30
ホウオウビスケッツ
12.50-11.70-11.05-11.15-11.85
12.50-11.70-11.05-11.15-11.85
エイシンフラッシュ
12.70-12.40-11.20-10.65-10.85
12.70-12.40-11.20-10.65-10.85
エイシンフラッシュと今年の3頭を比べるとL1000~600mのラップタイムがまるで違うのがわかりますね。この区間をベラジオオペラは24.1で走りエイシンフラッシュは25.1と1秒も違うわけです。この違いが上がり600mのラップタイムに影響を及ぼすのはイメージできるかと思います。端的に言うと芝2400m戦でL800~600mのラップタイムが11秒台に入ってしまうと上がり600mを32秒台で走るのは難易度がグッと上がります。そうそうたるメンバーが揃った2012年ジャパンカップではオルフェーヴル、ルーラーシップ、ダークシャドウはクリアしていきましたが3歳のこの時期ではなかなか難しいです。今年の日本ダービーはスローからの上がり勝負だったのは確かですが、トップスピードのレンジ勝負とまではなっていない状況であり、ロングスプリント能力も問われていた一戦でもありました。速い脚を持っていたという理由だけで上位3頭が決まったとは言えない側面があります。また、コーナーでの距離ロスは考慮していませんが後半1000mの平均ストライド長でもイメージが掴めるかと思います。
L400~200mでは2m近く坂を上っているので同じ力で走ると当然のごとくストライドが狭まります。ベラジオオペラはこの区間で最大ストライド長をマーク。平坦部分のL200~0mではストライドが15cm近く狭くなっているので、かなりピークアウトしています。一方エイシンフラッシュはストライドがL200~0mで伸びており、L400~200mでトップスピードに上げた余勢を保ったままゴールを駆け抜けています。過去にも紹介しましたが競走馬がスパート時にトップスピードを保てる距離は長く見積もっても150mほど。上がり600mをいかに速く走れるかは、その前の区間をゆったり走る、そして一気に全開とならない方が上手に走れる、という側面があります。以上の内容を今年の日本ダービー回顧にお役立てください。
余談になりますが内からスルスルと進出したベラジオオペラが最後の最後で外のソールオリエンスとハーツコンチェルトに差されたように見えた方がほとんどだと思いますが、それはカメラ角度の錯覚です。残り200m地点でベラジオオペラは外の2頭に届いていなくて残り100m地点でも同じく届いていません。残り200mから100mまでベラジオオペラはほぼ真っすぐの進路で走り、外のソールオリエンスとハーツコンチェルトはやや外にズレる形で走っていたのでベラジオオペラの伸びが目立つ錯覚となっています。その後ベラジオオペラはやや外に動き、外のソールオリエンスとハーツコンチェルトは最後の2完歩で内に向かったのでゴール直前に伸びたように見えたのもカメラ角度による錯覚。僅差の写真判定となったベラジオオペラとハーツコンチェルトは、ラスト200mでベラジオオペラの方が0.03秒ほど速かったと思われますが、差の詰め方はミリ単位レベル。残り50mを切ってから首の上げ下げのタイミングで並んだシーンはあったかもしれませんが、ギリギリ差し届かなかったという解釈でOKだと思います。
当マガジンの読者向けに前回で書いた枠順の影響に関して、今年の日本ダービーでの影響度を簡単に書いておきます。
この続き: 822文字
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