Mahmoudの競馬エッセイ vol.030 「競馬の格言を深掘り 右回り・左回りが得意」
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「あの馬はサウスポーで左回りが得意だ」みたいなフレーズを耳にすることがあります。右回り・左回りで成績が偏っている馬がいるのは確かで、そんな言及をされるのはある意味自然なことだと思います。例えば左回りの競馬場ならコーナー区間を左手前で走るわけで、左手前で走るのが上手な馬だと左回りで良績を上げられやすいと考えるのはわからなくもない話。栗東坂路の追い切り映像だと分かりやすいのですが、手前の違いでフットワークが異なる、正しく表現するならば得意・不得意な手前が分かれるタイプの馬が時々見受けられるので、そういった馬は右・左のコーナリングで得をする、あるいは損をするケースは確かにあるのでしょう。しかし、コーナーを回り切ると原則的に馬は手前を替えるので、要はコーナー区間で得をするのと直線部で得をするのと、どちらの比重が高いかの問題。コーナー半径がどうだとか、直線の長さがどうだとか、そんな視点を無視した結果のみで語られているのが実態だろうと感じます。現在の新潟競馬場芝コースは3~4コーナーの半径は内外同じですが内回りの最後の直線の長さは358.7m、外回りは658.7mと300mもの違いがあり、当然スパート始動の位置がコーナー区間か直線区間となるのかという違いも生じます。簡単に言い換えれば新潟芝外回りの3~4コーナーは力を入れて走るケースが少なく、一方新潟芝内回りの3~4コーナーは力を入れて走るケースが増えてくるわけで、コーナー区間での負荷は大きく異なるのが実態。この両コースを一括りに左回りと捉えるのは個人的に大いなる違和感を覚えます。先日話題になった小回りコースか否か、という問題も密接に関係しているのが右回り、あるいは左回りが得意という判定の土台ですね。
2022年以降の新潟芝内回り2000m戦で1~3着に入り、新潟芝外回り2000mでも1~3着に入った馬は現4歳セン馬アオカミ1頭のみだと思います。モデルケースとしてはジャストフィットするわけではありませんが、それなりに新潟内・外回りの違いが走行データに現れているので後半1200mにおける平均完歩ピッチの推移を見ていただきましょう。
新潟芝内回り2000m未勝利戦では青丸印がコーナーを含む区間、黄丸印が全てコーナー区間、新潟芝外回り2000m尖閣湾特別ではピンク丸印がコーナーを含む区間、白丸印が全てコーナー区間となります。未勝利戦ではバックストレッチから徐々にピッチを速めて3コーナーに突入。L500~400mでは前方馬のペースが上がらず抑える格好となりピッチを緩めておりコーナー区間をグンと速く走る形にはなっていませんが、尖閣湾特別よりはコーナー区間でピッチを速めているのがイメージできるかと思います。3~4コーナー区間トータル(約400m)の平均完歩ピッチは未勝利戦が0.427秒/完歩、尖閣湾特別が0.434秒/完歩。ともに56完歩での走行でしたが尖閣湾特別の方がゆったりとしたピッチで走っています。これが新潟芝内・外回りでの基本形となるコーナーでの走りの違い。コーナーワーク力が試されるのは内回りコースとなるのです。左回りのコーナリングが良くない馬であっても外回りならばデメリットコースにならない可能性が高まります。
このアオカミの例では、ラストスパートでの完歩ピッチ推移がかなり異なっています。内回り未勝利戦ではL300~100mでピッチをグンと速めてスパートしていましたが、外回り尖閣湾特別では4コーナー出口となるL700~600mが最速完歩ピッチ区間。全開スパート区間が400mも異なります。アオカミはキレるよりもしぶとい末脚を使うタイプなので600m以上のロングスパートでも頑張っていましたが、少々オーバーに表現すると外回り尖閣湾特別ではコーナー区間でじっとしていて頑張って走ったのは直線区間のみ、内回り未勝利戦ではコーナー区間で初段スパートを行い、コーナーから直線を合わせた区間でラストスパートを行っています。この違いが生じる要因は当然最後の直線の長さ。一つ前の段落の内容と重複しますが、新潟競馬場芝の3~4コーナーの半径はかなりタイトであっても、そのタイトさの影響が大きく出るのが内回りです。
さて、いわゆる「小回りコース」と表現されている、その実質的な意味合いはコーナー半径が小さいかどうかではなく、最後の直線の長さが短いコースであるという点に重点を置いて述べられているケースの方が多いんじゃないでしょうか。古くから私の記述をご覧の方はわかっていらっしゃると思いますが、私は「最後の直線が短い・長いコース」という表現をいつも用いますし、コーナーの半径に関してはタイトか緩いかというよりも、例えば中山競馬場内回りのような3~4コーナーをほぼ同じ半径で回り続けるコースと、3~4コーナー中間部分の半径が緩い複合コーナーの区別をはっきりさせるケースが多いです。今回取り上げた新潟競馬場芝コースなら、内回りは普通に「小回りコース」と表現すべきだと思いますし、最後の直線の長さはそれほど短いわけではないと付け加えます。外回りならコーナー半径のタイトさの影響はそれほどないので小回りか大回りかを論ずる気持ちはさらさらなく、単に最後の直線がとにかく長い、という点のみです。また、最後の直線が300m未満の札幌競馬場と函館競馬場を一括りに「小回りコース」と表現するのはやはり日本語的におかしいです。一括りにするなら「最後の直線がかなり短いコース」。4コーナーを逆手前でコーナリングしてしまう馬の数は札幌競馬場が圧倒的に多く、本当に「小回り」ならそんな事象は起きません。札幌競馬場はそれだけコーナー半径が大きいのです。最後の直線が短い要素を表わしたいのならその通りの表現をするべきで、札幌競馬場を「小回りコース」と表現するのはやめていただきたいです。古くから耳にする「小回り」という言葉遣い、それを本来の意味とは取り違えて安易に広めてしまったのが根本的な問題ですね。カテゴライズすればわかりやすいのは確かですが、安易なカテゴライズ化は諸刃の剣でもあるわけです。それでは最後に「右回り・左回りが得意」という部分をどう解釈すべきか書いておきましょう。
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