Mahmoudの競馬エッセイ vol.021 「ペース推移の影響 2023安田記念編」
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今回はペース推移の影響で競走馬の走りがどうなるのかをラップタイム・平均完歩ピッチ・平均ストライド長の値を見ながら掘り下げていきます。モデル馬はウインカーネリアン。鞍上は計14戦、そして7回連続騎乗となる三浦皇成騎手でウインカーネリアンの走りの質を完璧に捉えています。継続騎乗である最大のメリットを発揮できるコンビ。2走前の東京新聞杯を逃げ切り勝ち。先日の安田記念でもハナに立って逃げましたが結果は8着。C・Dコースの違いはあるものの舞台は同じ東京芝1600mでともに斤量は58kg。両日とも南方向からの風が吹きゲート付近の黄旗のなびき方は大差ない状態だったので比較するのに好条件でした。馬場差判定は実に難しい領域で私は何度も修正を重ねますが、現時点では東京新聞杯の方が1600mで0.1秒、200m当たり0.0125秒速い馬場という設定にしていて、ほぼ大差ない馬場の速さと考えて良いでしょう。
私がデータとしてよく用いる完歩ピッチは1完歩あたり平均何秒掛かっていたかという値。100m単位なら概ね12~15完歩における平均値。レース後半は余力残存度の影響が出ますが基本的に騎手の意図がこの完歩ピッチの値として現れます。「行こう」と合図が送られると競走馬はピッチを速めていきますし、その合図の程度によってピッチを速めていく度合いが変わります。そして「緩めよう」と合図が送られると競走馬はピッチを遅くしていきます。当然こちらも程度によってピッチを遅くしていく度合いは変わります。ハナに立っても制御が効かない馬が時々見られますが、大多数の競走馬はハナに立てば騎手の指示通りにピッチを変動させていきますし、ハナに立っていなくても折り合っている状態なら同様です。このピッチの変動は車のアクセル開度と近いイメージと見て問題ないでしょう。また、一気の加速時は若干ストライドを狭めつつピッチをグンと速め、スーッと加速していく際はピッチを速めるのと同時にストライドも伸びていきますし、逆に減速時やバテていく際はピッチが遅くなりつつストライドも狭くなっていきます。ピッチとストライドの質は個々の馬によって異なりますが値が上下動するプロセスは共通事項です。
それでは2023東京新聞杯と2023安田記念におけるウインカーネリアンの走行データをスタートから関所を設けつつ見ていきましょう。最初は前半400m。この区間の平均完歩ピッチのデータだけは前走ゴドルフィンマイルも含めておきます。
ラップタイムは0.05秒単位で書いていきますが、ウインカーネリアンが残り1600mのハロン棒を通過した瞬間から計測した実測値となります。
2023東京新聞杯
12.00-11.00
12.00-11.00
2023安田記念
11.75-10.90
11.75-10.90
東京新聞杯では2番枠からの発走。出遅れさえしなければマイペースで逃げを打てる絶好枠でしたが安田記念では17番枠。2、3番枠に距離カテゴリーが違うところからの参戦組メイケイエールとジャックドールがいるので、東京新聞杯のように序盤楽な形で逃げることが難しいのは承知の上でAプランは逃げることだったと思うものの、メイケイエールとジャックドールの動向次第では逃げないBプランも視野に入れていたことでしょう。いずれにせよスタートダッシュを決めるのは命題だったはず。実際東京新聞杯よりピッチを速めてスタートダッシュしていきました。しかし、とにかく全開でスタートダッシュしていこうと動いたゴドルフィンマイルよりはピッチレンジが遅いです。この安田記念で三浦皇成騎手はかなり押していたものの100%よりは若干余裕を持った状態だったかと思われます。それでも東京新聞杯より激しくスタートダッシュさせていたのはわかっていることなので、できる限り早い段階でスピードを緩めようと考えます。実際300~400m=L1300~1200m区間では東京新聞杯よりピッチを遅くしていますが、この一連の動きは全騎手共通でありごく自然な動き。過剰に力を使えば帳尻を合わすように力を抜く部分を作らねばなりません。これが後先考えずにハナに立つことだけに全集中してしまうと、それ相応の過度にペースを緩めることとなりレースが壊れることに繋がります。ストライド長の観点からは0~200m=L1600~1400mで安田記念の方が狭い値なのは、限りなく100%に近いレンジで一気に加速したことにより、馬自身がストライドより脚の回転力に重きを置いているからです。そして200~400m=L1400~1200mでは安田記念の方が伸びています。ピッチを速めストライドを伸ばし東京新聞杯以上にスピードを上げています。それだけ負荷が掛かっているのは前述の通り鞍上は把握済みです。次は800m=L800mとなる中間点までグラフを伸ばしてみましょう。
2023東京新聞杯
12.00-11.00-11.25-11.35
12.00-11.00-11.25-11.35
2023安田記念
11.75-10.90-11.50-11.65
11.75-10.90-11.50-11.65
安田記念では400~500m=L1200~1100m区間でピッチが一段と遅くなっていますが、その直後手前を替え若干ピッチを速めています。それでも結果的に前半300m以降の500m区間で東京新聞杯よりピッチを緩めることとなり、序盤の300mで東京新聞杯以上に頑張らせた分の帳尻を合わせた以上にペースを緩め東京新聞杯より0.20秒ほど遅いラップタイムで中間点を通過。馬場差を踏まえれば0.15秒遅くなっています。そして中間点通過時のスピードも違います。表示されていたトラッキングデータの速度は61.5km/h前後。200mのラップタイムなら11.7秒程度に相当します。東京新聞杯ではおそらく63.5km/h前後のはず。概ね2km/hの速度差があり、次の区間でのラップタイムに影響を及ぼします。ストライド長も次第に狭くなっており東京新聞杯以上の余力を温存できる方向性となっています。次は1000m=L600mまでグラフを伸ばしてみます。
2023東京新聞杯
12.00-11.00-11.25-11.35-11.40
12.00-11.00-11.25-11.35-11.40
2023安田記念
11.75-10.90-11.50-11.65-11.65
11.75-10.90-11.50-11.65-11.65
東京新聞杯よりピッチを緩めた区間は計600mとなっていました。平均ストライド長を見ても中盤部分でストライドを狭くしペースを落としているのがイメージできるかと思います。当然、鞍上三浦皇成騎手は東京新聞杯以上の手応えの良さを感じ取っていたことでしょう。そして中団・後方待機組勢と差し脚比べとなれば分が悪いのは百も承知。手応えの良さを背に早めの仕掛けを決断したのだと思います。その証拠にL700~600m区間の完歩ピッチが速くなっています。次は1200=L400mまでグラフを伸ばしてみます。
2023東京新聞杯
12.00-11.00-11.25-11.35-11.40-11.20
12.00-11.00-11.25-11.35-11.40-11.20
2023安田記念
11.75-10.90-11.50-11.65-11.65-11.15
11.75-10.90-11.50-11.65-11.65-11.15
中盤しっかり緩めた甲斐があって東京新聞杯よりグンとピッチを速めてラストスパートしているのですが、三浦皇成騎手としてはもっとじわっと全開スパートを行いたかったはず。しかしウインカーネリアンの番手にいたジャックドールの鞍上武豊騎手も差し脚比べは分が悪いと同じように考えていたことでしょう。動き出しのタイミングが同期してしまい並ばれてしまった以上、もう全開で追うしかない状態。もしジャックドールにゆっくり仕掛けをするタイプのジョッキーが跨っていればウインカーネリアンはマイペースでのラストスパートを敢行できていたかもしれません。しかし序盤といい、このラストスパートのタイミングといい、G1という舞台はやはり厳しい戦いが待っています。G3東京新聞杯のようなマイペースでのレースを行うのは実に難しいところです。それではグラフをゴールまで伸ばしてみましょう。
2023東京新聞杯
12.00-11.00-11.25-11.35-11.40-11.20-11.45-12.00
12.00-11.00-11.25-11.35-11.40-11.20-11.45-12.00
2023安田記念
11.75-10.90-11.50-11.65-11.65-11.15-11.40-11.95
11.75-10.90-11.50-11.65-11.65-11.15-11.40-11.95
早々とジャックドールに交わされてしまいましたが、余力温存度が高かった影響でL400mからのストライドは東京新聞杯より伸びており、他馬と相対的な見方であればバテたように見えてしまいますが、東京新聞杯と比べるとゴールまでよく踏ん張っています。さて、平均完歩ピッチと平均ストライド長を全体像で比べてみると、東京新聞杯と安田記念、どちらが効率よく走れたと思われますか?
効率の良いペース配分というのは加減速の波が少ない形となります。また先行馬、特に逃げ馬というのはハナに立つための瞬発力が必要であり、その序盤での瞬発力をラストスパートに置き換えると、逃げ馬はラストスパートで脚を長く使いにくい傾向にあります。よりゴールに近い位置での全開区間となるのがふさわしく、そしてできる限り一気に吹かさないラストスパートが望ましいです。先ほど述べたようにジャックドールの存在が厳しかったわけですが、仮に4コーナーL600m辺りでのスピードが東京新聞杯並みに速ければ、番手のジャックドールも一気に差を詰めるのが難しかったはずです。しかし序盤に話を戻しますが外枠というのも苦しかったとは思うもののジャックドール以外でもソダシを始めいかにもG1というメンバーが揃っており、スタートダッシュ力が高い馬が多かったので、東京新聞杯のような早々とマイペースに持ち込むのが困難だったというのがベースとして存在し、それに伴う形で中盤緩めざるを得なかったというのも事実です。
ウインカーネリアン自身の実走破タイムは東京新聞杯が1:31.65、安田記念が1:31.95。冒頭に述べた馬場差を勘案して東京新聞杯より0.2秒ほどラップダウンという結果になりました。これは終始マイペースでレースを運べなかったのが要因かと思いますが、仮に0.2秒速くゴールインしても勝ち負けには加われません。勝ち負けを可能とするためには有力馬が自身の能力よりラップダウンする形となる展開に持ち込む必要があり、間接的なスタイルだったとはいえ中盤ペースを緩めたのは戦略的に好判断だったとも言えます。また総括的な事を言えば、どこかで必要以上に速く走ったのなら違うところで遅く走る必要があるということ。そしてどこかで遅く走ったのなら、その分どこかで速く走ることができるということ。ペース推移はこのトレードオフの関係性が必ず付いて回りますね。
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