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Mahmoudの競馬エッセイ vol.027 「サーマルソアリング ダート爆走の要因」

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Mahmoud
2023/7/25 00:16
2023-07-23中京6Rダート1800m3歳以上1勝クラスでサーマルソアリングが快走を見せてくれました。2着馬に2.2秒も差を付ける大圧勝劇でしたが、ダート1800m戦でのこの2.2秒という差は平均的な1勝クラスとG3戦との違いに相当します。芝で7戦した後のダート初挑戦となったこのレースでサーマルソアリングがいきなり覚醒した要因を走行データとともに探ってみたいと思います。
まずはサーマルソアリングの個別ラップから。
13.00-11.20-12.70-12.55-12.35-12.35-12.20-12.10-13.35
この数字の羅列を見てもだからどうした、となるので道中8番手から進出し2着となったジュエリジュエリーとの各セクションのタイム差を見る方が迫力度は伝わるかと思います。
L800m地点:0.75秒差
L600m地点:0.95秒差
L400m地点:1.45秒差
L200m地点:2.15秒差
L100m地点:2.50秒差
そしてゴールでは2.20秒差だったので、L100m地点からは差が詰まっていることになります。映像を見てもわかるようにサーマルソアリングはかなり早い段階から緩めてゴールインしていました。要はブレーキングしながらの入線だったわけですが、同じようにブレーキングしながらゴールインした有名例は今年のドバイシーマクラシックでのイクイノックスですね。そのブレーキングの度合いを比較する上でこの2頭の50m毎に細分化した残り600mでの完歩ピッチの推移を見ていきましょう。
ちなみにこの完歩ピッチのグラフの縦軸のスケールは基本0.3800.480/完歩にすることが多く、超ピッチタイプやスプリンターたちの比較で用いる場合は0.3600.460/完歩としたり、あるいはディープボンドやAdayarといった巨大なストライドを誇る馬なら0.4000.500/完歩とするケースがありますが、今回のサーマルソアリングは巨大ストライド馬と同じスケールにしないとグラフが描けないくらいでした。L50m区間の完歩ピッチはほぼ0.500/完歩。bpmで表わすなら120程度で人間の行進曲と同じテンポという、まさに歩きながらと言えるほどのゆったりとしたリズムでゴールイン。また、イクイノックスと比べL10050mでのピッチの緩め方が急で、ドバイシーマクラシックでのイクイノックス以上に緩めていたのは確かですね。鞍上西村淳也騎手は残り240m辺りで後方に視線を向け0.6秒ほど時間を費やし後続馬との差を確認。そして残り100mを切った時点で抑えにかかっています。ラスト200mでの100m毎のラップタイムは6.30-7.05程度。ブレーキングしなければ少なくとも0.4秒速くゴールインできた可能性が高いと考えられます。実質2.6秒ぶっちぎったと考えて問題ないくらいの強烈なレースぶりでした。
サーマルソアリングのダート適性が高いというのは疑いようのない事実でしょうが、データ的にもある程度裏付けすることができます。ともに中京芝で走った新馬戦および勝利した未勝利戦と今回のダート戦における200m毎の平均ストライド長をご覧ください。
サーマルソアリングのピッチレベルなら新馬戦の馬場と比較して約34cm、未勝利戦の馬場と比較するなら約40cm、ダートコースだとストライドが狭くなるのが通常ですが、今回のL16001400m=前半200400m区間での平均ストライド長は芝戦のピーク値に遜色のない値を叩き出しています。もちろん余力消耗度がまだまだ低い区間だけにストライドが良く伸びる側面はありますが、同時にこの区間は100m以上タイトなコーナー部分でもあるのでダートというトラックサーフェスに対するトラクションの掛かり方が異常なレベルだと考えて問題ないでしょう。ちなみにスタートからゴールまでの総平均ストライド長は新馬戦が7.24m、未勝利戦が7.46m、今回のダート戦が7.19mでした。芝とダートにおける通常レベルのストライドの変化量で計算するなら、今回のダート戦と同レベルとなるストライド長で走れば勝利した未勝利戦の走破タイムを概ね2秒縮めることが可能となります。それくらいサーマルソアリングのダート適性が高いのは確かなことです。しかし、今回のビッグパフォーマンスの要因はそれだけではありません。次は勝利した中京芝1600m未勝利と、その次走阪神芝1600mチューリップ賞の平均完歩ピッチの比較グラフをご覧ください。
勝利した未勝利戦でも中間点辺りまで暴れながら走っているのがサーマルソアリング。鞍上福永祐一元騎手が懸命になだめながら追走させていたので、しっかりとしたラストスパートを繰り出せましたが、続くチューリップ賞ではソロっとゲートを出したもののL12001100mではこれだけピッチがグンと速くなるケースはまれなくらいにガッツリと掛かっていました。レース中盤では何とか折り合っていましたがラストスパート始動からは反応が急過ぎて一気に脚を使えたもののラスト100m手前からは失速傾向。芝よりダートで良績が上がる馬の多くは瞬発力不足の分、だらっとした流れで良さが生きる形になるのですが、サーマルソアリングはそういったタイプとは異なりしっかり差して来られる瞬発力を持ち合わせています。しかし芝戦全7レースは全て控えた位置取りでの競馬を試み、その結果全てで折り合いを欠いている側面があります。それが今回のダート戦では一転ハナに立ちました。計8レースでの前半600mの完歩ピッチ推移を見ると、このサーマルソアリングの特徴がハッキリ浮かび上がってきます。
今回のテンの100mの完歩ピッチは勝利した未勝利戦とほぼ同等で、次の区間はさらにピッチを速めて先頭に立ちました。その結果、前半400mからは過去走よりも逆にピッチを緩めることができ、ハナに立ちさえすれば折り合いは全く問題ないという結果となりました。それでは1800m全区間、前走と完歩ピッチを比較してみましょう。
2023-06-1131勝クラスでは前半200m地点で最後方辺りの位置取り。そこから鞍上が促していくと、何度も口を割ったりアタマを上げたりして折り合いを欠いたままの追走。湿った馬場によってキックバックを受けたのもサーマルソアリングは相当嫌だったかもしれません。それが今回のダート戦では前述の通り早々とピッチを緩めることができ、L1200m辺りから始まるバックストレッチで後続の2頭がプレッシャーを掛けるような感じで接近していましたが、サーマルソアリングはほぼピッチを乱すことなく淡々と折り合い良く走れていました。前に馬がいるいないでは気性的に相当大きな差があるようです。ダート適性力以上に逃げるレースをしたという意味の方が、爆走要因における比重は大きかったのではないかという感想ですね。
今後は逃げられるか否かが大きなポイントになってくると思われます。そして逃げられなかった際は鞍上の対応技術、制御技術が問われることになるでしょう。勝利した未勝利戦以外の芝6戦のほとんどは映像と走行データで分析する限り、制御できないままのレースとなっており鞍上泣かせの難しい馬であるのは間違いないところです。とはいえ、0.1秒ある完歩ピッチグラフの縦軸を目いっぱい使って勝利した馬は過去に記憶がないほど。それほど今回の走りに対してはインパクトが相当ありました。次走以降どんなレースを見せてくれるのか大変楽しみですし、逃げをすんなり打てるのか否か、そして鞍上が誰になるか等、興味は尽きません。

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