Mahmoudの競馬エッセイ vol.010 「次元が違うイクイノックス 2023年ドバイシーマクラシック」
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このメンバーと戦って負ける姿が全く想像できないほどの圧勝劇を演じた、今年のドバイシーマクラシックでのイクイノックスの走りを振り返ってみたいと思います。まずは前半1200mの平均完歩ピッチを昨年の日本ダービーおよび有馬記念と比較してみましょう。
ゆっくり出していった日本ダービーと位置を取りに行った有馬記念の中間辺りとなる完歩ピッチで今回スタートダッシュしていきましたが、他に逃げる意思を持った馬は1頭もいなくてイクイノックスがハナを切る形。一見押し出されてハナに立ったように見えますが、しっかりダッシュさせて位置を取った後ガツンと抑え込んだ有馬記念より100~300mでの完歩ピッチは速いです。「逃げてもええねん」というスタンスの元、スムーズなリズムで走ることを優先した結果でしょう。200~300mでは僅かに速くなってはいるもののその後は緩やかにピッチを落とし前半500m辺りからはほぼ一定のピッチで走行。スタートダッシュから一定のスピードに落ち着くまで実に滑らかでエコドライブな逃げです。欧州12F戦の基本形とも言え、日本のレースではあまり見られない光景ですね。日本だと必ずきっちりスタートダッシュさせて抑え込むという形が基本形。シャフリヤールは少し掛かっていましたが、このレースのようなスピード推移となると掛かる馬は少なくなると思われます。
日本ダービーでは後方3番手、有馬記念は中団といった位置取りでしたが、今回の完歩ピッチの推移からすると前半600mまでのペースの速い順に書くと2022有馬記念≧2023ドバイシーマクラシック>日本ダービーという形。前半1200mでは今回が最も速いペースで走っていた形かと思われます。今やTrakusがなくなりラップデータはわからない状態かと思うので要所のスプリットタイムを何とか計測してみました。前回のvol.009で書いたのと同様、ドバイ・メイダンの各カメラの同期はなされていないのでデータ収集は相当苦労しましたが、イクイノックスの前半1210mのスプリットタイムはおそらく75.80。日本式1200m換算値なら73.98。前半区間は200m平均12.33のペース。後半1200mは69.85で200m平均11.64。この前後半のペースバランスを73.65-68.25で走った日本ダービーと比較すると、今回のイクイノックスの逃げは日本ダービーでの自身より中間点で0.6秒ほど前に位置する辺りとなります。その日本ダービーでイクイノックスより0.6秒中間点で前を走っていた馬はドウデュース。つまり日本ダービーでのドウデュースと同様の前後半のバランスで今回走破していました。偶然とはいえ実におもしろいデータとなりました。
日本ダービーでドウデュースとイクイノックスの間で追走していたのがキラーアビリティ。今回のドバイシーマクラシックだと3、4番手の間くらいの位置取り。そのキラーアビリティはかなりの高速状態の馬場であっても上がり3Fは34.5に留まっており、スロー寄りの追走ペースとはいえラストでビュンと伸びることができるほどの緩いペースではないのです。もし今回のイクイノックスが日本ダービー以上のパフォーマンスとなる走破タイムで駆け抜けていたのなら、他馬にとってはさらに余力を刻一刻と削がれるペースになるわけで、出走メンバー基準としてならイクイノックスは楽な逃げを打ったわけではありません。楽だったのはイクイノックスだけ、そんなペースだったと解釈すれば良いでしょう。日本式2400m換算タイムは2:23.83で200m平均は11.96。ドバイターフの日本式勝ちタイムは1:46.19で200m平均は11.80。1800mと2400mにおける200m平均ラップの差は理論上0.3秒ほど差があるので、走破タイムの価値はドバイシーマクラシックが断然上となります。このイクイノックスの走破タイムと同水準の日本式1800m走破タイムは1:45.2程度。次は後半1200mの完歩ピッチの比較。
逃げ馬、追い込み馬がどういったラストスパートになるかを如実に表したグラフ波形となっています。せっかくなので基本的なことを書いておきますが、逃げ馬は序盤余力を多く使って前に行きます。追い込み馬は余力を温存して序盤を走り、その結果位置取りが後方になります。レース後半、追い込み馬は早い段階から前との差を詰めに掛かる必要がありますが、その労力の担保となるのが序盤で消費を抑えた余力となります。一方、逃げ馬は序盤で余力をある程度消費してしまったのでラストスパート始動を遅くする必要に迫られます。同じ能力の馬同士がレースを行った際、前の馬が勝つか後方の馬が勝つかの分かれ目は、このラストスパートのタイミングに委ねられます。要はゴールまで最も効率の良い走りをした馬が勝つ、というのが競走の基本原理となります。イクイノックスも位置取りによってラストスパート始動がきっちり変化しています。今回、明確なラストスパート始動と言えるのはL600mから、といった感じでした。それでは2着Westoverとも比較してみましょう。
L1200~900mでの値の差は、この2頭の持ち前のピッチレンジの違いを表わしています。そこそこ差があるのですが、L800~700m区間ではWestoverの方がピッチは速くなっています。Westoverのラストスパート始動はココですね。L600~500m区間ではイクイノックスの方が速くなっていますが、Westoverはストライドが大きくコーナー加速に手こずっている様が伺えます。L500~400mはほぼ同じピッチの値。この3コーナーに入ってから4コーナーを回り切るまでのL800~400m区間、この2頭の完歩ピッチ推移は持ち前のピッチレンジからすると大きな違いがあるのですが差は一向に縮まらない展開。前にいる位置取りのマージン以上に余裕度にかなりの違いがあります。これは端的に追走能力の違いということ。イクイノックスは逃げたことによって序盤労力を割いてもなお、Westoverより余力が残っているわけです。大きなアクシデント等がない限り、この2頭の後先は1万回繰り返しても不変ですね。
イクイノックスの快走劇は「ノーステッキで」と評されていました。しかし最後の直線に向いてからのL400~300mでの完歩ピッチの速まり方はかなり急です。一気に加速しているんですね。残り400mを過ぎてから、微妙な違いですがC.ルメール騎手の手の動きが大きくなっていて、その挙動をイクイノックスはしっかりと鞍上からの全開GOサインとして受け取っています。それにしても逃げていた馬とは思えないほどの強烈なスパート。後半1200mのラップ推移はこんな感じでしょう。
69.85:11.84-11.83-11.94-11.54-10.98-11.71
このデータを基とした200m毎の平均ストライド長はこのようになります
7.71-7.68-7.61-7.63-7.49-7.51(m)
加速する際はピッチがグンと速くなると同時に通常はストライドも伸びていきますが、過去に何度か紹介しましたがイクイノックスはストライドを狭めて一気にスピードアップするんですね。そしてその後はストライドを伸ばしてスピードを維持していくという走り。アーモンドアイも同様でしたが、このようなラストスパートの質を見せる馬はあまりいません。天才的なフットワークと言えるモノです。前述のL800~400m区間ではピッチをさほど速くせずともストライドを伸ばしてコーナー区間でも加速するような形。素晴らしいの一言。そしてラスト200mでの平均ストライド長があまり伸びていないのは早々と緩めてスピードダウンした影響によるもの。この波形は既視感があります。というか、自分で作っているので既視感どころかこの馬と同じだ、とすぐに感づくわけですが。
ディープインパクトの引退レースとなった2006有馬記念ではあまりにも短い区間で他馬を一気に置き去りにしたので、相当ブレーキを掛けて入線していましたが、それとよく似ているのが今回のイクイノックス。L50~0mの平均完歩ピッチは0.472秒/完歩。これ、調教時に序盤ゆっくり走っている際のキャンターに近いレベルなんです。実際にはゴールまで10完歩辺りから緩め始めていて、これ、緩めずに駆け抜けていたら0.3~0.4秒速くなります。2着Westoverとのタイム差は0.59秒ありましたが、実質0.9~1.0秒差、5馬身1/2~6馬身ほどの差がありました。古馬になって一段パワーアップした感はありますが、個人的には完成期を迎えたとはまだ思えないんですね。真の意味での世界制圧、やってもらいましょう。
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