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ファミコン互換機の製造数は? 番外編 シリアルナンバーに基づく「NTDEC」再考察

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Unauthorizon
2025/8/13 16:36

今回はちょっと話を遡りまして、連載第3回で扱ったNTDECこと任天堂電子回の続きです。より精密な推計のためにはやはりシリアルナンバーを収集する必要がある……と考えて実際にやってみました。すると思いがけない結論が見えてきたのです。同社のファミコン互換機製造数は、最終的に台湾第2位の規模にまで登りつめていました。

前回の推計は正確だった

任天堂の名を騙る悪名高き海賊版ファミコンメーカー、任天堂電子(NTDEC)。本連載の第3回ではその年商などの資料を基に、同社のファミコン互換機製造台数は(会社を畳む1994年までの下限値で)75万台程度だろうと推計しました。
今回シリアルナンバーを調査してみてまず分かったのは、これがかなりいい線をいっていたということです。シリアルナンバーを集計して得られた数値は、1994年までに約80万台。推論の手法そのものは的外れではなかったと言えそうです。
ただ問題は、1994年「以降」でした。今回新たに明らかになったその製造台数は、1994年までよりも遥かに多かったのです。これには率直に言って驚きました。

例外的な成功

1994年以降というと、台湾ファミコン互換機産業にとってはいわば衰退期であり、大手各社(台湾晶技(小天才)、勝天電子(AARONIX)、大雅電子(DAR YAR)、普澤(Bit Corp.))は軒並みその頃から失速しています。任天堂電子もこの時期に表向き倒産しているので、失速は避けられなかっただろうと高をくくっていたのですが、これがとんだ思い違いでした。
同社はむしろ1994年を境に販売台数を飛躍的に増加させています。ライバル大手各社の凋落を尻目に、唯一社ファミコン互換機の販売台数を伸ばし続けたのです。なぜそのようなことが可能だったのでしょうか?
任天堂電子のNT-102型。本家ファミコンをやや流線型に寄せたデザイン。
円盤型のデザインが印象的なNT-103型。NT-102型と並んで任天堂電子~ASDERの代表的な機種であり、任天堂電子時代の初期からASDER期まで一貫して製造され続けた。

カセット製造から本体製造への転換

1994年以降に販売台数を伸ばしたのは、正確にいえば任天堂電子ではなく、1993年にその後を継いだASDERこと富威股份有限公司(のち亞斯德科技有限公司)です。連載第3回で述べたように、任天堂電子はこの年、任天堂による著作権侵害訴訟に敗訴して壊滅的な打撃を受けました。そして表面上は事業を畳み、ASDERとして再出発しています。おそらくこのときに業態の転換を図ったものと見られます。筆者によるシリアルナンバーの統計には、ちょうどASDER時代になったあたりから本体の出荷台数が加速度的に増えていく様子が、はっきり映し出されています。
任天堂電子開発のオリジナルファミコンソフトたち(画像出典)。後期の任天堂電子はソフト開発専門のメーカーも立ち上げるなど、オリジナルソフトの開発にも注力していた。
任天堂電子時代の同社は、ゲーム機本体よりも海賊版~非公認ゲームカセットの製造を主力としていました。しかしASDER富威~亚斯德時代になると、明らかに同社製造であると分かるゲームカセットは、後述するファミコン学習機のものを例外として全く見つからなくなります。つまりASDERへの移行を契機に、彼らはリスクの高いカセット製造から事実上手を引き、ファミコン互換機本体のほうに注力するようになったわけです。
1994年前後はまた、ファミコン互換機に大きな技術革新があった時期でもあります。親指サイズの半導体ひとつにファミコンの全機能が収まる──いわゆるワンチップ・ファミコンの採用が本格化し、本体の製造コストが大幅に押し下げられました。これもASDERに業態転換を促すひとつの転機をもたらしたのかもしれません。事実としてちょうどASDERになった頃から、ほぼすべての互換機にワンチップ・ファミコンが採用されています。
ワンチップ仕様のNT-102型基板。ワンチップのファミコン互換機は一概に雑な作りのものが多く性能評価も低くなりがちだが、ASDERのものはしっかりした作りであることが知られている。この頃中国本土には粗雑なワンチップ互換機のメーカーが次々と現れていたが、ASDER製品は信頼性を武器に差別化を図ったといえる。
さてここからは、収集したシリアルナンバーの一覧を読み解き、彼らがどんな市場で何をどの程度売っていたのか見ていきましょう。

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