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ファミコン互換機を巡る大いなる謎、「互換機はどれくらいの数が作られたのか?」に迫る。連載第8回はサウジアラビアと湾岸諸国を制した「RINCO」こと駱瑪有限公司(RAMAR INTERNATIONAL CO., LTD.)を見ていきます。とにかく情報の少ない企業なので、いつにもまして推測材料は限られますが、分かる範囲のことをお伝えできればと思います。

ファミコン互換機は中東地域にも広く普及し、とりわけサウジアラビアやトルコがその一大消費地となっていました。そしてサウジアラビアなどの湾岸諸国で圧倒的な普及度を誇っていたファミコン互換機メーカーが、「RINCO」ブランドで知られる駱瑪有限公司(Ramar International Co., Ltd.)です。同地域での普及が本格化した1990年代において、少なく見積もっても市場に流通した7~8割程度は駱瑪(および関連メーカー)の製品だったと見受けられます。なお同社は、中東~東欧地域でアタリVCS互換機も多数流通させており、これらも小さくないシェアを占めていました。
駱瑪は1980年に吳美欽(Larry Wu)なる人物が設立した台湾の会社ですが、設立の経緯やビデオゲーム機を扱うようになった経緯は不明です。1990年に「RINCO」の商標を出願しており、それ以降にファミコン互換機およびアタリVCS互換機の販売に乗り出したとみられます(実際に確認できる範囲では1992年の製品が最古)。同時期に同社が出願した商標にはアラビア語のものがいくつかあり、中東は当初から主要なマーケットだったことが分かります。
湾岸諸国では「RINCO」と並ぶブランドとして「AL SAGR」もよく知られています。両ブランドは商品の内容や方向性がよく似ているのみならず、しばしば両ブランドが併記されている商品もあるので、近い関係にあったと見られます。より正確にいえば、駱瑪は「AL SAGR」の登録商標も保有しています。しかしその適用範囲は「磁気ディスク媒体あるいはROMカートリッジ」に限定されていました。

ゲーム機本体についての「AL SAGR」商標は、駱瑪と同時期に同じ図柄で、駱漢股份有限公司(Rahham Corporation)という似た名前の会社が出願・取得しています。同じ図柄の「AL SAGR」商標は他にもいくつかの企業に分散しているのですが、最初にこれを登録したのは海山有限公司という家電メーカーでした(1987年)。恐らくここが本家で、他社に「AL SAGR」商標をサブライセンスしていたのではないかと思われます。
先述のように「RINCO」と「AL SAGR」のファミコン互換機は多くの点で共通しているのですが、明らかに駱瑪の製造した互換機が「AL SAGR」ブランドで発売されたりもしています。ということは駱漢と駱瑪は協力関係にあったのでしょう。それぞれのファミコン互換機をOEM製造しあっていたのかもしれません。
駱瑪・駱漢はファミコン互換機産業においてわりと後発であるにもかかわらず、どこにでもあるようなニセファミコン型(ファミコン模倣型)を主力としていました。正面にコントローラ端子が三つ並んでいる点は松玲企業のSY-700を彷彿とさせますが、内部基板は独自設計です(例外としてAL SAGRの一部の製品は大雅電子製)。これに数十から1000000000くらいまでの内蔵ゲームを仕込むことで、無数の製品バリエーションを作り出していました。
RINCOの典型的なファミコン互換機(パッケージ)。「1000000」は内蔵ゲーム数を示す。
RINCOの典型的なファミコン互換機(本体)。フロント部の情報量が多いのも特徴で、ここでは湾岸諸国市場の二大人気タイトル("CAPTAIN MAJID"(キャプテン翼) と "TURTLE"'(TMNT))が強調されている。内蔵ゲーム4000000本はもちろん盛りすぎだが、湾岸諸国市場のファミコン互換機はこの数字が並外れてインフレ化する傾向にあった。
製品の大半はファミコン模倣型ですが、RINCO/AL SAGRならではの機種もないわけではありません。どちらも非常にレアではありますが、極めてユニークなものとしては、MSXパソコンそっくりなのになぜかキーボードがないAS-270型や、12ビットの音声合成機能を独自に搭載した「Talkman」があります。どちらも湾岸諸国以外に流通した形跡がないものです。
AS-270。RINCO、AL SAGRなどいくつかのブランドで同じものがリリースされている。なぜこのような形状になったのかは不明だが、同社はわざわざこれを意匠登録しているので(梁愛珍 "電視遊樂器主機" Pat. No.150194, Jan.11 1991)、なにかしらの意図があったのだろう。
Talkman。こちらもRINCO、AL SAGRなどいくつかのブランドでリリースされている。
「Talkman」に対応した『キャプテン翼II』のアラビア語版(勝手翻訳の海賊版)。実況アナウンス部分を音声で読み上げる。駱瑪は1995年から自社製ソフトの開発にも力を入れており、アラビア語の勝手翻訳版だけでなく「The Dragon」のようなオリジナル作品も制作していました。
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ファミコン互換機の製造数は?「RINCO」「AL SAGR」編【第8回】
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